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【米国株】マコーミックは外部環境の変化に強い買収巧者のスパイスメーカー

2021/05/10
 

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40代の読書家 兼 エコノミスト。 普段、マネーに世界中をさせています。ブログでは、おカネ(投資)とホン(書評)とタビ(旅行)についてまとめていきたいと思います。「いいね」を押してくださったり、ツイートしてくださると励みになります。 よろしくお願いします。

1ヶ月に1社のペースで米国企業を取り上げようかと思っています。今回は景気循環の影響を相対的に受けにくい食料品メーカー。ディフェンシブという印象が強いですが、単なるディフェンシブなのかどうか、McCormick (MKC) の企業内容・業績を分析しました。分析には、Annual Report、10-K、Docohを中心に使っています。

マコーミック(MKC)の概要

まず、マコーミック(MKC)の概要、採用インデックス、日本のオンライン証券会社での取り扱い状況は、それぞれ以下のとおりです。

セクター、業界はDocohを参照しています。

概要

  • セクター:All Other Miscellaneous Food Manufacturing (その他食料品製造業)
  • 業界:Miscellaneous Food Preparations & Kindred Products(その他食料品製造業)
  • 競合他社:
  • 本社所在地:メリーランド州ボルチモア
  • 売上高: 5,601百万ドル/約6,000億円(2020年11月期)
  • 営業利益率: 17.8%(2020年11月期)
  • 営業CFマージン: 18.6%(2020年11月期)
  • 配当性向
    • 配当÷当期純利益: 44.2%(2020年11月期)
    • 配当÷FCF:40.4%(2020年11月期)
  • 時価総額:23,623百万ドル/約2.5兆円(2021年4月15日時点)

採用インデックス

マコーミック(MKC)は、S&P500採用銘柄です。

Dow NASDAQ100 S&P500

取扱証券会社

SBI、マネックス、楽天の大手オンライン証券会社いずれも、マコーミック(MKC)を取り扱っています。

SBI マネックス 楽天

 

マコーミック(MKC)の事業内容

日本国内でスパイスと聞くと、S&Bやハウス食品が頭に浮かび、マコーミック(MKC)がどのような商品を取り扱っているのかよくわからないのが実情です。日本では、中華系・エスニック系の調味料を取り扱うユウキ食品がマコーミック製品のリテール機能を担っていますが、スーパーの棚を見る限り、S&B、ハウス食品といった国内メジャーブランドの力が強いですね。

日本における知名度の低いマコーミック(MKC)は、実は約160ヵ国で事業展開している世界最大級のスパイスメーカーです。1889年創業のマコーミック(MKC)は当初、ルートビア、フレーバーエキス、フルーツシロップなどを戸別訪問で販売していましたが、1896年にスパイスを取り扱う企業を買収したことを通じて、本格的にスパイスメーカーの仲間入りを果たし、その後、M&Aを通じて、徐々に規模を拡大してきました。2015年以降、計9件の買収をおこなっており、直近では、2020年11月にCholulaというメキシカンのプレミアムホットソースブランドを803mil USDの現金で買収し、また、12月にはFONAというフレーバー関連企業を710mil USDの現金で買収しました。

マコーミック(MKC)の事業ポートフォリオは大きくコンシューマーとフレーバーに分かれ、コンシューマー事業が全体の約64%を、フレーバー事業が約36%を占めている構造です。なお、営業利益の観点からは、コンシューマー事業が全体の約77%を、フレーバー事業が約23%を占めています。コンシューマー事業の方がフレーバー事業よりも利益率が高い構造です。

なお、コンシューマー事業の最重要顧客はウォルマートで、ウォルマート向け売上は全体の約12%を占めています。一方、フレーバー事業の最重要顧客はペプシコで、ペプシコ向け売上は全体の約11%を占めています。業界のトップクラスを顧客に持つということは、売上が特定の個社に依存してしまっているリスクを内包します。

マコーミック(MKC)が抱えるリスク

10-K記載のITEM 1A. RISK FACTORSには、企業のリスクが重要度の高いものから順に記載されています。2020年11月期の10-Kによると、マコーミック(MKC)が抱えるリスクのうち、インパクトが大きいものは以下の3つです。

  1. COVID-19を含むパンデミックの発生
  2. 評判やブランド名の毀損、ブランド関連の喪失、顧客や消費者によるプライベートブランドや他の競合ブランドの使用の増加、製品の品質や安全性への懸念
  3. 顧客の統合や、顧客が直面している競争上・経済上・その他の圧力

COVID-19は最も重大なリスクですが、2番目はブランド、3番目は顧客側の統合という点が、スパイスをはじめとするフレーバービジネスに起因する特有のリスク化と思います。

ブランドの毀損は、消費者に与える心証を悪くします。

日本でいえば、ミツカンのお家騒動のようなものは、消費者が不買運動を起こし、企業イメージ・ブランドイメージが損なわれる典型例です。(脱線しますが、非上場企業の娘婿というのはこのような境遇に逢いやすいと思われます。一番の被害者は実父との関係を断たれる子供ですが、創業者一家が孫を養子縁組して、娘婿を不遇の扱いにするスキームは、他にも多くありそうですし、弁護士事務所や税理士法人がテンプレート化していると思います。)

また、マコーミック(MKC)にとっての直接の顧客はスーパーマーケットや食品メーカーなどの法人です。このような法人が合併を繰り返して規模が大きくなるにつれて、バーゲニングパワーが生まれます。たくさん仕入れるから値引きしろ、自社向けに特別仕様を作れなどなど、です。こういったバーゲニングパワーが生まれると、マコーミック(MKC)にとっては、効率的なビジネスの阻害要因であり、利益率改善が期待通りに進まない可能性が生じてきます。

マコーミック(MKC)の財務分析

次に、マコーミック(MKC)の財務データを見てみます。

マコーミック(MKC)のPL分析

2000年度以降の推移を見ると、売上は上昇基調、COVID-19の影響を受けた2020年度も上昇を続けています。この20年間で、営業利益率は10%程度から20%弱へと上昇し、2020年度の営業利益率は対前年比で悪化を回避しました。年々利益体質の企業として成長を続けていることを伺い知ることができます。

なお、2008年当時も、リーマンショックという事実で売上は横ばい気味の一方で営業利益率は上昇しました。外部環境・マーケットの変化に左右されない企業という見方もできると思います。なお、2020年年末にかけて買収したCholulaとFONAがマコーミック(MKC)の財務データに反映されるのは、2021年度からです。

売上推移(セグメント別)

マコーミック(MKC)の売上は”Consumer”と”Flavor”から構成されています。コンシューマー事業の営業利益率は20%前後で推移し、フレーバー事業の営業利益率は近年15%弱と改善されつつあります。

売上推移(地域別)

マコーミック(MKC)の地域別売上高の推移を見てみます。主要地域は米州であることに変わりないのですが、2018年度に1,100百万USDあったAPACの売上高は、2020年度には半分以下の580百万USDにまで落ち込んでいるように見えますが、これまでの括りであった”Other Countries”が、2019年度に”APAC”の括りに変更になったことに伴うものです。

地域別売上高の比率を見ても、一貫して、米州(AMERICAS)が断トツで、次にEMEA、最後にAPACと続きます。

マコーミック(MKC)のBS分析

次に、純資産と自己株式の推移をグラフにしました。BSには自己株式が個別表示されていなかったため発行済み普通株を折れ線グラフで記載しました。なお、注意が必要ですが、自己株式を取得したからといって、発行済み株式数が減少するわけではないです。自己株式を取得して、消却すれば、発行済み株式数は減少します。つまり折れ線グラフは下がります。横ばいの発行済み株式数から読み取れることは何もありません。横ばい=自社株買いをしていないという短絡的なものではありません。

強いて言うならば、自己株式が個別表記されていない=重要性が低いということの表れですので、自社株買いは積極的に行う企業ではないと言えます。発行済み株式数は年末時点の数を表しており、2020年は発行済み株式数が倍増していますが、これは2020年12月1日の株式分割(2-for-1 split)によるものです。

2017年度に、Giotti@イタリアを約127百万ドルで取得し、Reckitt Benckiserの食料品部門(RB Foods@英国)を約42億ドルで取得したことに伴ってGoodwillは倍増しましたが、総資産に占めるGoodwillの割合は、ほぼ横ばいで推移しています。つまり、Goodwillの増加と共に、総資産も相応に増加していることが意味します。

一方で、マコーミック(MKC)はこれまでに多くのブランドを取得してきて、2021年4月末時点のブランド数が35に上ることを踏まえると、ブランドを取得する際は、割安で取得する傾向にあり(結果として、多額のGoodwillは計上されない)、買収巧者の一面が垣間見えます。

Goodwillとして約5,000mil USDがB/Sに計上されているため、一気にドカンと減損を認識するようなことがあったら利益剰余金(約2,400mil USD)をすべて吹き飛ばしてしまうレベルです。

ブランド名や商標から構成される無形資産は、2017年以降顕著に増えています。これは、前述のReckitt Benckiserの食料品部門(RB Foods@英国)買収を通じて取得したブランドによるものです。

なお、現金の割合は総資産の1-3%程度で推移していますが2020年度はコロナ禍という先を見通せない状況だったこともあり、保有する現金残高、比率共に増加したのではないか、と考えられる一方で、2020年年末の買収に現金を必要としていたから、保有していたという捉え方が濃厚な気がします。というのも、2008年当時の金融危機時において、金融危機という理由が現金を厚くする行動につながっていないからです。

マコーミック(MKC)のCF分析

事業拡大に伴って総量は増えているものの、純現金増減(赤色の折れ線グラフ)は微々たるものですので、余計なキャッシュを手元に置かない姿勢を見て取れます。RB Foodsなどを買収した2017年度は、財務CF、投資CF共に増加していますが、それ以外の年度は大きな変化が見られません。ただし、2008年度と2020年度の財務CFはプラスですので、マクロ環境が不安定なときに機動的に資金調達していることが読み取れます

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フリーキャッシュフロー(営業CF-資本的支出)はここ数年は10%から15%弱に右肩上がり、ボリュームも右肩上がりであることを読み取れます。

純利益vs営業CF

営業CFは必ず純利益を上回っていなければならないという鉄則がありますが、マコーミック(MKC)の営業CFの方が純利益よりも大きいですが、過去、純利益のほうが営業CFを上回っている時期がありました。近年、営業CFと純利益の差が大きくなってきている傾向を読み取れます。

営業CFマージンの推移

MaketHack流 世界一わかりやすい米国式投資法の技法”によると営業CFマージンは15%~35%が理想ですが、マコーミック(MKC)の直近10年間で営業CFマージンは10%弱から20%弱へ右肩上がりで推移しています。2021年度第1四半期が思わしくないので、事業年度の残りを通じてどこまでリカバリーできるか、が焦点になってきます。

利益指標

利益指標としてのROEとROA

ROEは右肩下がり、ROAはやや横ばいと読み取ることができます。

ROICの推移

ROIC(Return on Invested Capital)とは、事業のために投じられた資本の効率性を測る指標であり、NOPAT÷投下資本で算出されます。ROICは10%前後で推移していることがわかります。

なお、NOPATはEBITx(1-実効税率)、投下資本は純資産と総有利子負債の合計の期首期末平均でそれぞれ求めています。

マコーミック(MKC)の安全性分析

マコーミック(MKC)の格付推移

直近のマコーミック(MKC)の格付はBaa2で、BBBに相当します。最後にノッチダウンがあったのは、Reckitt Benckiserの食料品部門(RB Foods@英国)を発表した2017年7月の翌月です。コロナ禍においてもノッチダウンされず、格付け見通しもStableです。

格付機関 長期発行体格付 見通し
Moody’s Baa2 Stable
S&P
Fitch

Moody’sのウェブサイトより、マコーミック(MKC)の格付推移を長期で見てみると、頻繁に格付は動いておらず安定的です。Reckitt Benckiserの食料品部門(RB Foods@英国)の買収を受けて、3ノッチダウンに至りましたが、リーマンショックのときもノッチダウンされず、今回のコロナ禍でもノッチダウンされていません。ノッチダウンのトリガーは買収ですので、外部環境の変化に強い企業と捉えることができます。

インタレストカバレッジレシオ

営業利益÷金融費用で算出したインタレストカバレッジレシオは4-10倍程度あるので、ファイナンス面において安心です。リーマンショック・コロナ禍よりもむしろ、2017年の企業買収という自社イベントの方がインカバに与えた影響は大きいです。

マコーミック(MKC)の配当性向推移

Dividend ÷ Net Incomeを配当性向として捉えると、50%前後で推移しており、通常の環境下において減配・無配リスクは低いと考えられます。フリーキャッシュフロー(FCF)に対する配当金額の割合を配当性向として捉えてみても、大差なく捉えることができます。一方で、今期(2021年1Q)を見てみると、FCFを基に算出した配当性向はマイナスとなっているので、残りの期間を通じてFCFを回復できるか、が焦点です。

マコーミック(MKC)の配当利回り

マコーミック(MKC)は地道に増配を続けつつも、配当利回りは1%以下から1%半ば程度までに上がってきていました。(配当利回りは年度の1株あたり配当金額を事業年度末の株価で除して算出)。ぱっと見、コロナ禍の影響?と捉えたくなりますが、実際は、株式分割による影響です。分割考慮前だと、1株当たり2.54(=1.27×2)ドルでした。最近の毎年20セント増配を継続した流れとなっています。

S&P500との比較

直近5年間の株価の推移です。S&P500が105%上昇する状況において、マコーミック(MKC)の株価はS&P500を下回る89%の上昇にとどまっています。コロナ禍で先行きが見えなかった2020年は、S&P500を大きく上回っていましたが、ワクチン開発・普及につれて、リスクオン・モードになる中で、堅実なマコーミック(MKC)は売られているという見方ができます。

一方で、2020年年末に立て続けに買収したCholula、FONAがマコーミック(MKC)にどの程度寄与するか見通しが立っていないが故に売られているのではないか?という見方もできます。まずは、Cholula、FONAの買収が成功であることを、毎四半期の実績でこれでもかというくらい示していかないと、市場から納得のいく評価を受けるのは難しそうです。

まとめ

毎期安定した増配企業であるマコーミック(MKC)は、日本におけるプレゼンスは低いものの世界最大級の隠れたスパイスメーカーです。多くのブランドを取得しているものの、その多くについては、Goodwillに与える影響は軽微です。割安なブランドを次々と取得しているという買収巧者のように見て取れます。

一方で、直近、取得したブランド(Cholula、FONA)については、結果を残せるか市場からの評価はまだついていないようです。

 

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