【米国株】AT&T:通信の域を超えたデジタルメディア会社。ただし、S&P500で十分
気になる米国企業を個別に調べていきます。調べるにあたって、Annual Report、10-K、Docohを中心に使っています。
目次
AT&T概要
まず、AT&Tの概要、採用インデックス、日本のオンライン証券会社での取り扱い状況は、それぞれ以下のとおりです。
セクター、業界はDocohを参照しています。
概要
- セクター:Information(情報通信)
- 業界:Telecommunications Resellers(電気通信事業者)
- 本社所在地:テキサス州ダラス
- 売上高: 181,193百万ドル/約19兆円(2019年12月期)
- 営業利益率: 15.4%(2019年12月期)
- 営業CFマージン: 26.9%(2019年12月期)
- 配当性向
- 配当÷当期純利益: 99.4%(2019年12月期)
- 配当÷FCF:46.6%(2019年12月期)
- 時価総額:206,160百万ドル/約21兆円(2021年1月22日時点)
採用インデックス
AT&Tは、2004年にダウ工業平均に採用されましたが、2015年にアップルが組み込まれるにあたって除外されました。一方で、S&Pには1983年より組み込まれています。
ダウ工業平均 | S&P500 |
X | 〇 |
取扱証券会社
SBI、マネックス、楽天の大手オンライン証券会社いずれも、AT&Tを取り扱っています。
SBI | マネックス | 楽天 |
〇 | 〇 | 〇 |
AT&Tの設立背景とM&Aの歴史
旧社名(American Telephone & Telegraph Company)から社名を作っているAT&Tの沿革をまとめました。
AT&Tは、当初、SBC Communications Inc. (SBC)という社名で、AT&T Corp (ATTC)の市内電話会社の運営を目的に設立された地域持株会社でしたが、1984年に独占禁止法に基づく指令に基づいてATTCから分社化され、上場した電気通信事業者です。分社・上場時は、南西部の5つの州で事業を展開しているのみでしたが、1997年にPacific Telesis Group、1998年にSouthern New England Telecommunications Corporation、1999年にAmeritech Corporationと次々と合併し、固定電話の独占権を有する通信事業体 (ILEC : Incumbent Local Exchange Carrier) として、有線通信事業を13州に拡大しました。
2005年 ATTCとの合併を機に、世界有数の電気通信事業者の1つになりました。また、合併に関連して、SBC Communicationsから現在のAT&Tに社名が変更されました。
2006年 BellSouth Corporationと合併し、さらに9つの州でILECとなりました。BellSouth社の買収に伴って、BellSouthが保有していたAT&T Mobility LLC(旧Cingular Wireless LLC)の持分(40%)を取得し、AT&T Mobilityは、AT&Tの完全子会社となりました。
2014年 無線通信事業者であるLeap Wireless International, Incを買収する一方で、1998年に取得したコネチカット州におけるILECを売却しました。
2015年 メキシコにおける無線通信事業を取得し、米中南米地域において衛星テレビ放送サービスを提供しているDIRECTVを買収しました。
2018年 タイムワーナーの買収を終え、ターナー、Home Box Office (HBO)、ワーナーブラザーズといったメディア・エンタメ事業を手中に入れました。また、JVで設立していたデジタルメディア会社であるOtter Media Holdingsを100%子会社化するとともに、プログラマティック広告・広告プラットフォーム提供会社であるAppNexusも買収しています。
なお、2020年11月に、Liberty Latin America(Ticker: LILA)にプエルトリコ、米国領バージン諸島における無線通信・有線通信事業を1,950百万ドルで売却し、AT&Tはキャッシュを得ます。ウェブサイトによると、AT&Tは非中核事業のマネタイズの機会を引き続き探るとのことです。
AT&Tの事業内容
AT&Tの事業は、大きく4つの事業セグメントから構成されています。
- Communications
- Warner Media
- Latin America
- Xandr
Communicationセグメント
Mobility、Entertainment Group、Business Wirelineの事業ユニットから構成されており、Mobilityは主にワイヤレスサービスとその機器を米国全土に、Entertainment Groupはビデオ、インターネット、音声通信を住民向けに、Business Wireはネットワーク、音声・データ通信サービスを法人向けに提供しています。
Warner Mediaセグメント
映画、テレビ番組、ゲーム、その他のコンテンツの開発、制作、販売をデジタル・物販の垣根なく担っているWarner Mediaセグメントは、Turner、Home Box Office、Warner Bros.の事業ユニットから構成されており、Turnerは多チャンネルサービスの運営とデジタルコンテンツの管理を行うほかに、自らのネットワーク・デジタルコンテンツを通じて広告の枠を販売しています。Home Box Officeは、有料コンテンツ・ストリーミングサービスを国内・国外において行うのにあわせて、コンテンツのライセンス管理なども行っています。Warner Bros.は、テレビ番組・映画の製作・放映・権利化のほかに、家庭向けエンターテインメントの配信やゲームの製作・販売を行っています。
Latin Americaセグメント
メキシコ・中南米においてワイヤレス通信サービスを担当するLatin Americaセグメントは、Mexico、Vrioの事業ユニットから構成されており、Mexicoユニットは、メキシコ国内におけるワイヤレス通信サービスの提供とその機器の販売を行い、Vrioユニットは、中南米・カリブ海地域において衛星通信技術を使ったビデオ配信サービスを住民向けに行っています。
Xandrセグメント
AdTechを使った広告事業を手掛けるXandrセグメントは、2020年にWarner Mediaセグメントに統合されました。Xandrセグメントは、広告を通じて得られる消費者インサイトなどのでデータを活用し、デジタルコンテンツにおいて顧客に刺さる広告を配信する技術に特化したターゲッティング広告(パーソナライズ広告)を手掛ける事業セグメントです。
AT&Tが抱えるリスク
2019年12月期の10-Kによると、AT&Tが抱えるリスクは、マクロ経済、業界特有、企業固有のリスクに分類されます。それぞれ以下のとおりです。
マクロ経済:
- 医療費高騰、米国株式市場悪化、金利上昇といったマクロ経済要因は、従業員の福利厚生費の上昇を招きます。
- 事業の国際化は政情不安定、世界経済の変化、事業遂行にあたっての規制へのエクスポージャー・リスクを増大させ、これらリスクは事業の成長機会を奪う可能性があります。
業界特有の要因:
- 連邦レベル、州レベルあるいはアメリカ国外の国の行政レベルの規制や決定・手続きが事業コストを増加させ、事業に対する顧客の認識を変え、結果として、通信業界において逆風となる可能性があります。
- ワイヤレス、ビデオ、ブロードバンドを通じて、顧客に魅力的なコンテンツ・サービスを提供するにあたって、常時接続が求められ、相応の資本を必要とし、また継続的な投資が求められます。
- ワイヤレス分野における顧客獲得の競争の激化は、最終利益に悪影響を及ぼします。
- テレビ業界と視聴者の視聴パターンの絶え間ない変化は、最終利益に悪影響を及ぼします。
- 海賊版の流通が無形資産を毀損し、事業機会を損なう可能性があります。
企業固有のリスク:
- 新しいソフトウェアを使った技術の導入が原因で品質面やサプライチェーンにおいて問題が発生し、資本コストが増加する可能性があります。
- ビデオ、コンテンツ制作費用の増加が収益圧迫要因につながります。
- HBO Maxの会員つなぎ止め、新規獲得努力が功を奏しないと収益圧迫要因につながります。
- 敗訴や政府による調査結果が多額の支払いや負担の大きい業務手続気につながる可能性があります。
- サイバー攻撃、機器の故障、自然災害、テロは、事業に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
- 企業買収や周波数帯の追加購入、あるいはその他の戦略的な意思決定のために行われる資金調達の結果として、負債の増加は、将来、低金利で資金調達する際の足枷になり、競争や不景気における対応能力を低下させる可能性があります。
AT&Tの財務分析
次に、AT&Tの財務データを見てみます。
AT&TのPL分析
データを取得できた2011年度以降を見ると、売上は上昇基調、営業利益率は多少の増減はあるものの、10%-15%程度で推移しています。
AT&TのPL分析(セグメント)
主力事業はCommunicationsですが、近年は、HBOを擁するWarnerMedia事業の伸びが著しいです。タイム・ワーナーを買収していなかったら、AT&Tはジリ貧になっていた可能性が高いです。
CommunicationとWarnerMediaセグメントの営業利益率は安定して20%強の水準で推移していますが、Xandrの営業利益率は下落基調、Latin Americaはマイナス圏で推移しています。
AT&TのBS分析
のれん(Goodwill)が総資産の25%程度を占めています。のれん判定を通じて減損を認識する際のPLへのインパクトが大きいです。
なお、現金の割合は総資産の2%にも満たないですが、タイム・ワーナーの買収手続きが完了した2018年の前年のみ10%を超えています。ただし、これは2016年に発表した現金と自社株を使ったタイム・ワーナーの買収による一時的なものです。
AT&TのCF分析
タイム・ワーナーの買収に伴う、一時的なキャッシュ増加、それに伴う翌年の反動減を除けば、余計なキャッシュを手元に置かない姿勢を見て取れます。
純利益vs営業CF
営業CFは必ず純利益を上回っていなければならないという鉄則がありますが、AT&Tは営業CFの方が純利益よりも大きいので、粉飾の可能性は極めて低いと考えられます。
営業CFマージンの推移
”MaketHack流 世界一わかりやすい米国式投資法の技法”によると営業CFマージンは15%~35%が理想ですが、AT&Tの営業CFマージンは25%前後で推移しています。
AT&Tの安全性分析
AT&Tの格付推移
直近のAT&Tの格付はBBB/Baa2、すなわち投資適格の水準です。
格付機関 | 長期発行体格付 | 見通し |
Moody’s | Baa2 | Stable |
S&P | BBB | Stable |
Fitch | A- | Stable |
Moody’sのウェブサイトより、AT&Tの格付推移を長期で見てみると、2000年代初期のITバブル時に格付けを落としていますが、2008年のリーマンショックを受けても格付を維持していました。ただ、ここ5年くらいに焦点をあてると、格付けは悪化傾向にあるように見て取れます。
インタレストカバレッジレシオ
営業利益÷金融費用で算出したインタレストカバレッジレシオは300%程度あるので、ファイナンス面においては安心です。即座に何かあったとしても、次の手を打つだけの時間は残されていると思います。
AT&Tの配当性向推移
Dividend ÷ Net Incomeを配当性向として捉えると、100%に近い水準で推移しているため、減配・無配リスクを否定できませんが、2019年度のAnnual Reportによると、AT&TはNet Incomeではなく、フリーキャッシュフロー(FCF)に対する配当金額の割合を配当性向として捉え、2022年までにこのFCF配当性向を50%以下にすることを目標として掲げています。試算上、営業CF-投資CFをFCFと定義すると、FCF自体がマイナスになる年度は過去にあったものの、100%を下回って推移していることがわかりますので、この推移が続く限りにおいて、減配・無配リスクは低いと考えられます。
また、2022年までにタイム・ワーナー買収時に発行した株(1,185百万株)の7割程度を対象に、配当支払い後のFCFの5割~7割を使って自社株買いを行う計画を立てています。
AT&Tの配当利回り
AT&Tは毎年4セントずつ増配を続けて、配当利回りは5%強(年度の1株あたり配当金額を事業年度末の株価で除して算出)で推移しています。先を読みやすいというのはビジネスにあたって安心材料の一つですが、投資においても安心材料の一つです。
AT&TのARPUと解約率
四半期報告書より、1契約あたりの売上を表す指標であるARPU(Average Revenue Per User)について、電話料金は55ドル前後(ユーザーのUnlimited planへの移行から減少傾向)、解約率は1%前後です。一方、プレミアムTVは130ドル前後、インターネット回線は52ドル前後です。
なお、Latin America事業におけるARPUは6ドル前後で推移しており、他と比較して圧倒的に低く、また、解約率は6%前後と高いです。
Latin Americaセグメントのうちメキシコ事業は、毎事業年度の営業利益率がマイナス30%前後で推移しています。どういった背景から、収益に貢献していないメキシコ事業を継続しているのか読み取れませんが、私だったら、不採算事業であるメキシコを売却します。メキシコ通信王カルロス・スリム氏が率いるAmerica Movilの当て馬として、形式上の競争相手として事業を行っているのかな?その見返りとして何か得ているのかな?と穿った見方も出てきます。
S&P500との比較
直近5年間の株価の推移です。S&P500は100%上昇、つまり2倍になっていますが、AT&Tの株価は約2割のマイナス。100を買って、毎年5の配当を得て、5年後の累計リターンとして80+5×5-100=5を得たいか、あるいは毎の配当は3程度であるものの、5年後の累計リターンとして200+3×5-100=115を得たいか。高配当に目を奪われて、目的を見失わないようにしたいですね。
まとめ
FCF配当性向が低いことから減配リスク・無配リスクは低いと考えられ、また、2022に向けて自社株買いを積極的に行う姿勢を示しているので、ファイナンス面においては、枕を高くして寝られる水準でしょう。一方で、肝心のビジネスにおいては、WarnerMedia、特にHBO頼みといった感が否めません。今後は、新規会員数をどれだけ獲得していけるかがキーになります。私は、Netflix派ですけどね。