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【日銀】B/S推移の見える化を通じて見えてくること【2020年9月末時点】

2020/11/29
 

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40代の読書家 兼 エコノミスト。 普段、マネーに世界中をさせています。ブログでは、おカネ(投資)とホン(書評)とタビ(旅行)についてまとめていきたいと思います。「いいね」を押してくださったり、ツイートしてくださると励みになります。 よろしくお願いします。

日銀の令和2年度上半期の財務諸表が公開されましたので、日銀のB/Sの推移を見てみました。

資産の部: ETFよりも国債の保有の方がはるかに大きい

日銀によるETF買入れが、たびたび報道されていますが、信託財産株式・ETF(約34兆円: 2020年9月30日時点)が日銀の総資産690兆円(同時点)に占める割合は5%程度であり、日銀の資産の部の約8割は国債から構成されています。なお、日銀が保有するETF(TOPIX連動ETF+REIT ETFと仮定)が東証一部の時価総額(約615兆円: 2020年9月30日時点:参考)とREIT時価総額(約13.6兆円: 同時点:参考)の合計(約629兆円)に占める割合は6%弱です。

日本株の投資家は、日銀によるETF購入が株式市場に与える影響を頭の片隅に入れておかなければなりませんが、日本円で生活する人は金利変動がB/Sに与える影響、債務超過に陥った日銀が待つ将来を想像しなければならないと思います。特に、金利上昇は債券価格の下落につながるため、今後、日本国債の金利が上昇する局面では、国債評価損(債券取引損失引当金繰入額)のP/L計上を通じて純資産(4.2兆円: 2020年9月30日時点)に与える影響(債務超過)が懸念すべき点です。

ETFと国債の保有割合を踏まえると、株価下落による保有ETF評価損(損失引当金繰入額)よりも、金利上昇による保有国債評価損(債券取引損失引当金繰入額)の方がP/Lに与える影響が大きいと思います。

こちらのグラフは資産の部の内訳について、2013年9月末からの推移を百分率で表したものです。コロナ禍を受けて貸出金の比率が増えていることがわかります。

2020年3末時点の資産の部の内訳で外国為替の比率が上がっていましたが、9月末時点においては、これまで通りの水準に戻ったように見て取れます。財務省の公表資料によると、国債発行残高の約48%を日銀が保有していることがわかり、銀行・生損保といった機関投資家を抜いて、最大の債券保有者となっています。

負債の部: 急増する当座預金

資産の部にて国債が増える一方、負債の部の預金(市中銀行が日銀に預け入れる当座預金)の残高が積みあがっています。日銀は市中銀行より預金金利で資金調達のうえ、国債で運用しているという見方もできますが、調達金利と運用金利が逆ザヤになったら、有利子負債と運用資産のボリュームにもよりますが、日銀のP/Lに損失が計上される可能性が高まります。2020年3月末時点と比較すると、売現先勘定が減少し、預金・政府預金が増加しています。

こちらのグラフは負債の部の内訳について、2013年9月末からの推移を百分率で表したものです。預金の比率が増加傾向にあることを見て取れます。

金地金の推移: 保有トン数もB/S計上金額も変わらず

中央銀行が金を保有していることは周知の事実であり、日銀が保有している金が計上されている勘定科目は、日銀の「金地金引出条項付預金の取扱いについて」によると、「金地金」勘定で計上されていることがわかります。

ただ、非常に興味深いことに、日銀の金地金は、2013年9月30日時点から2020年9月30日時点のB/Sの推移をみる限りにおいて、金額に変更はなく、また、金の保有残高も変更ありません。なお、World Gold Councilのサイトによると、日銀は金地金を765トン保有しています。(以下のグラフ参考)

2020年9月30日時点の日銀が計上している金地金は4,413億円であり、同日の金保有トン数が765トンであるとすると、取得原価は約577円/gとなります。2020年11月27日時点の税込買取価格(田中貴金属:6,618円/g)で時価評価すると約4兆6,215億円の評価益が生じますが、なぜ、時価評価していないのか、開示されておらず、また、担当監査法人の記載がありません(参照:日銀日経新聞)。監査法人による会計監査が実施されている株式会社であってもコーポレートガバナンスが不十分な会社が多いなかで、(監査法人による会計監査があれば十分というわけではありませんが)株式会社ではない日銀にコーポレートガバナンスが浸透しているかどうか外形的に疑問です。

保有国債の内訳推移: 減少する短期、増加する10年超

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保有国債の推移を見ると、傾向として2年物以下の年限を減らしつつ10年物以上の割合を増やしていることを見て取れます。保有国債が約530兆円であり、また、負債の部に計上されている預金が約517兆円であることを踏まえると、日銀は市中銀行からの(当座)預金を使って、国債を買い入れている・支えているように見て取れます。

なお、たった半年間で保有国債は約45兆円も増えています。後先考えずに日銀が抱えざるを得ない状況かと思います

また、9月末時点に限ると、国庫短期証券の割合が急に増えています。ALM管理できているのか疑問ですが、そもそもいつでも引き出し可能な預金(超短期資金)を原資に超長期の国債を保有するというのは、流動性リスクを抱えすぎているのではないかと思います。

仮に、市中銀行が日銀への当座預金のうち超過準備額を減らしたら、日銀は国債を売却して市中銀行に現金を還流させなければならないでしょう。そうなると、日銀による国債の売却は需給を悪化させ、(いろいろな思惑もあって)金利が上昇し、国債の価格は下落し、日銀は評価損を計上する、という悪循環に陥ると思います。

2016年1月に導入されたマイナス金利付き量的・質的金融緩和は、中央銀行と市中銀行の関係・生態系を崩さないことを前提とした、アナウンスメント効果を狙っただけ(実質建前)な気もします。

そもそも金銭消費寄託契約に基づく期限の定めのない預金を使って、長期性資産を運用すること自体、財務リスクを負っており、その財務リスクが兆円単位となると、市中銀行は超過準備額を減らさないであろうという性善説・前提(あるいは指導)のもと、運用されている気がします。

日銀が保有する国債の年限は、9月30日時点において、加重平均で11.51年であり3月末に比べて一時的に減少したように見て取れますが、年々、増加傾向にあることに変わりありません。

10年物から30年物までの国債の保有割合が年々増えていることがわかります。

保有外国為替の内訳推移: 外貨貸付金の一時的な増加

資産の部に計上されている外国為替の内訳を見てみると、2020年3月31日時点において、外貨貸付金が異常値ではないかと思うくらい急増していることがわかります。この点について、財務諸表の注記を見てみると、以下のように記載されていました。コロナ禍の影響を受けて、日銀が金融機関に外貨を貸し付けた結果だと思われます。

「貸出支援基金」の運営として行う成長基盤強化を支援するための資金供給における米ドル資金供給に関する特則による貸付金の残高及び米ドル資金供給オペレーションによる貸付金の残高

なお、外貨貸付金の残高は9月30日時点においては、以前と同水準にまで下がっています。

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