【日銀】B/Sの推移をグラフ化して見えてくること
先日、日銀が保有するETFの残高推移を見てみましたが、日銀のB/Sに興味が湧いたので、今回はB/Sの推移を見てみました。
目次
資産の部: ETFよりも国債の保有の方がはるかに大きい
日銀によるETF買入れが、たびたび報道されていますが、信託財産株式・ETF(23兆円: 2018年9月30日時点)が日銀の総資産545兆円(同時点)に占める割合は5%もなく、日銀の資産の部はほぼ国債から構成されています(約85%: 同時点)。なお、日銀が保有するETF(TOPIX連動ETF+REIT ETFと仮定)が東証一部の時価総額(約675兆円: 2018年9月30日時点)とREIT時価総額(約13兆円: 同時点)の合計(約688兆円)に占める割合は3%強です。
日本株式の投資家はETFが株式市場に与える影響を頭の片隅に入れておかなければなりませんが、日本円で生活する人は金利変動がB/Sに与える影響、債務超過に陥った日銀が待つ将来を想像しなければならないと思います。特に、金利上昇は債券価格の下落につながるため、今後、日本国債の金利が上昇する局面では、国債評価損のP/L計上を通じて純資産(4兆円: 2018年9月30日時点)に与える影響(債務超過)が懸念すべき点です。
ETFと国債の保有割合を踏まえると、株価下落による保有ETF評価損よりも、金利上昇による保有国債評価損の方がP/Lに与える影響が大きいと思います。なお、日銀が保有する国債は、財務省の公表資料より、発行残高の約46%を日銀が保有しています。
負債の部: 急増する当座預金
資産の部にて国債が増える一方、負債の部の預金(市中銀行が日銀に預け入れる当座預金)の残高が積みあがっています。日銀は市中銀行より預金金利で資金調達のうえ、国債で運用しているという見方もできますが、調達金利と運用金利が逆ザヤになったら、日銀のP/Lに損失が計上されます。(日銀B/SのALM分析については、時間があるときに試みようと思います。)
金地金の推移: 保有トン数もB/S計上金額も変わらず
中央銀行が金を保有していることは周知の事実であり、World Gold Councilのサイトによると、日銀は金を約765トンを保有しています。日銀が保有している金が計上されている勘定科目は、日銀の「金地金引出条項付預金の取扱いについて」によると、「金地金」勘定で計上されていることがわかります。
ただ、非常に興味深いことに、日銀の金地金は、2013年9月30日時点から2018年9月30日時点のB/Sの推移をみる限りにおいて、金額に変更はなく、また、金の保有残高も変更はありません。(以下のグラフの緑色を参考)
2018年9月30日時点の金地金は4,413億円であり、同日の金保有トン数が765トンであるとすると、取得原価は約577円/gとなります。2019年4月17日時点の税込買取価格(田中貴金属:4,929円/g)で時価評価すると約3兆3,294億円の評価益が生じますが、なぜ、時価評価していないのか、開示されておらず、また、担当監査法人の記載がありません(参照:日銀、日経新聞)。監査法人による会計監査が実施されている株式会社であってもコーポレートガバナンスが不十分な会社が多いなかで、(監査法人による会計監査があれば十分というわけではありませんが)株式会社ではない日銀にコーポレートガバナンスが浸透しているかどうか外形的に疑問です。
保有国債の内訳推移: 減少する短期、増加する10年超
保有国債の推移を見ると、2年物以下の年限を減らし、5年物以上の割合を増やしていることを見て取れます。日銀は、市中銀行に当座預金を必要以上に預けさせないように、マイナス金利を導入したものの、その当座預金を使って、国債買い入れを行っているように見て取れます。
仮に、市中銀行が日銀への当座預金のうち超過準備額を減らしたら、日銀は国債を売却して市中銀行に現金を還流させなければならないでしょう。そうなると、日銀による国債の売却は需給を悪化させ、(いろいろな思惑もあって)金利が上昇し、国債の価格は下落し、日銀は評価損を計上する、という悪循環。。
2016年1月に導入されたマイナス金利付き量的・質的金融緩和は、中央銀行と市中銀行の関係・生態系を崩さないことを前提とした、アナウンスメント効果を狙っただけ(実質建前)な気もします。
そもそも金銭消費寄託契約に基づく期限の定めのない預金を使って、長期性資産を運用すること自体、財務リスクを負っており、その財務リスクが兆円単位となると、まともな人間は運用できないと思います。(市中銀行は超過準備額を減らさないという性善説・前提のもと、運用されている気がします。)
保有外国為替の内訳推移: 減少する債券、増加する預け金・貸付金
資産の部に計上されている外国為替の内訳を見てみると、債券が減少し、預け金・貸付金が増加していることがわかりますが、外国為替で見た場合、金額はほぼ横ばいである一方で、総資産は増加しているため、総資産に占める外国為替の割合は3%弱(2013年3月31日時点)から1%強(2018年9月30日時点)まで下落しています。金額的な重要性を踏まえると、米国債保有国ランキングについて、日本のランクをどうこう議論するようなものではないと思います。
日本の将来を考えるうえで、日銀のB/Sはなかなか興味深いので、時間を作って、勉強(分析)していこうと思います。