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【書評】証券分析【1934年版第1版】第12章~第14章

2021/08/30
 

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40代の読書家 兼 エコノミスト。 普段、マネーに世界中をさせています。ブログでは、おカネ(投資)とホン(書評)とタビ(旅行)についてまとめていきたいと思います。「いいね」を押してくださったり、ツイートしてくださると励みになります。 よろしくお願いします。

ベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドによるバリュー投資のバイブルともいえる証券分析【1934年版第1版】を紹介します。全52章から構成される大作のため、後々見返すことを念頭に、書評というよりもむしろ各章の要約的な位置づけとして複数回に分けてまとめます

要約・備忘録としての位置づけが近い、このブログシリーズの自分ルールについては、別記事でまとめました。

前回の記事では第8章から第11章まで触れましたが、今回は、

  • 第12章 鉄道債と公益事業債の分析
  • 第13章 債券分析のその他の要因
  • 第14章 優先株の理論

をまとめます。優先株というと、企業の優先株を直接保有している個人は少ないと思います。むしろ、米国ETF投資している人にとっては、PFFを通じて、優先株を知っているくらいだと思います。何も知らずに配当利回りが高いという理由だけで優先株ETFを保有している人は、この章を通じて、勉強しましょう。なお、優先株に関する議論は、15章以降にも続いています。

第12章 鉄道債と公益事業債の分析

鉄道債も公益事業債も、私自身(日本の個人投資家)という観点からは馴染みがありません。

鉄道債

詳しい分析は不要。時間の無駄

本業が労働という個人投資家は、自分の余暇(仕事以外の時間)を通じて分析をして、より良いと思われる、より自分の目的に適っていると思われる金融商品に投資するわけですから、費用対効果も重要です。ここでの費用は時間を意図しています。

限られたインカムゲインを目的とする確定利付き証券を選択するときには、難しい分析は必要ではないだろう。投資家は数量的基準に従って、その鉄道会社の収益は支払利息を十分に上回っているか、継続企業としての価値は債務よりも大きいのか、といった点などを確認すればよい。・・・その会社の性質から見てこれからも将来性を望めるのか、逆に倒産の可能性はないのか、などについて自分なりの判断を付け加えれば十分であろう」と指摘されているように、インタレスト・カバレッジ・レシオや格付を押さえつつ、事業安定性を加味すればよいです。

例えば、毎日、通勤で利用している鉄道会社は、毎日利用しているからこそわかる情報(沿線の都市開発、乗客率など)もあると思います。詳細なデータを使った分析は不要で、そういった「苦労は一切しないで別の債券でも購入して4~6%の確定利息をもらったほうがよほどまし」です。2020年代において、優良債券が4~6%のリターンをもたらすわけでもないので、目線はぐっと低くなります。

実際、「鉄道債の分析が複雑なのは、関連するデータがあまりにも膨大」ですが、膨大だからといってすべての情報に価値があるとは限りません。「さらに慎重を期したい場合には、アニュアル・レポートの細かい項目にまで分析範囲を広げるよりは」インタレスト・カバレッジ・レシオや株主資本比率「に対する最低基準をさらに厳しくするほうが賢明」です。見るべき項目・変数を増やすよりかは、押さえておくべき項目をさらに厳しい基準を課したほうが、定点観測も楽になると思われます。

なお、「確定利付き証券に投資するというそのこと自体が将来の予測に基づく投機とは正反対の性質のものである」ので、大きなリターンはそもそも望めないという割り切りが必要だと思います。

ほどほどに正確に計算する

「債券投資家にとって計算法はあまり重要ではなく、ほどほどに正確であればよい。・・・投資家が入手するデータは過去のものであり、大切なことはそこから未来のヒントや手掛かりをどうやって得るかということなのである。」これは債券投資家に限らず、すべての投資家に言えることだと思います。

経営陣による恣意的な業績操作

B/S・P/Lは経営陣の意思表示・意見ですので、恣意的な業績操作といっても、仮装経理や粉飾ではありません。「経営陣が恣意的に決定することによって、その期の業績を意図的に操作できる2つの重要な項目がある。そのひとつは維持費用である。」「もうひとつの項目は受取配当金である。・・・・多くの子会社を擁しているため、特別配当の形で不定期な利益が入る」からです。ただし、「こうした会計操作は株式価値の分析にとっては興味ある問題であるが、債券投資家にとってはそれほど重要ではない。債券の安全性にとって悪材料となるものに目を向けるよりは、安全性の裏付けとなるような好材料を探すほうがよほど賢明である」

債券投資家にとって注意を向けるべき点は安全性の裏付けという点には納得がいきますが、子会社からの受取配当金は連結財務諸表で内部取引として相殺消去されますし、そもそも、単体財務諸表だけで判断することに重要性はないと思うので、子会社からの受取配当金を操作できるとしても、重要視すべき点ではないと思われます。

公益事業債

公共事業とは、「国の認可や規制の下に国民に必要なサービスを提供する事業」のことを言い、電力会社がイメージしやすいかと思います。そのほか、鉄道、ガスなども該当すると思います。投資の観点から公共事業を捉える際に重視すべきは、「公共事業の最も重要な条件はその「安定性」」であり、その安定性は以下の2点によって支えられています。

  1. 「多くの顧客に対して不可欠のサービスを独占的に提供していること」
  2. 「投下資金に対して十分な収益を保証する認可料金制」

「安定性」を見る上で、インタレスト・カバレッジ・レシオが代表的な指標となりますが、分子・分母に注意を払う必要があります。たとえば、「支払利息に充当可能な利益を表すときに減価償却費を控除しないのは、事実を完全に歪曲するものです」。というのも、減価償却費が控除されない分だけ、営業利益は嵩上げされ(分子は大きくなり)、インタレスト・カバレッジ・レシオの見栄えが実態よりもよくなるからです。さすがに、今の世の中、減価償却費を表示しない上場企業はないと思いますが、「設備投資額と総収益の間にはかなりの相関関係が認められるため、総収益からある程度正確な減価償却費を計算でき」ます。

第13章 債券分析のその他の要因

章のタイトルに、その他の要因と付いているだけあって、本章では、単体・連結決算、子会社配当、子会社の少数株主持分、金融費用などについて解説しています。その中から、気になる点を挙げようと思います。

子会社の少数株主持分

「一般に少数株主の利益は親会社の債券利払いのあとで控除されるため、その債券の安全余裕率を引き下げる要因とはな」らないものの、グレアムらは「インタレスト・カバレッジを計算する前に少数株主の利益を控除すべきであると考え」ています。

運転資本の取扱い

「会社の債券の安全性を見る場合には、「固定資産」はあまり重視しないほうがよ」く、一方で、「「流動資産」が極めて重要であり、投資家はこの項目を詳しく調査する必要があ」ります。

流動資産の状況を調べる際、以下の3点についてチェックする必要があります。

  1. 十分な現金を保有しているか
  2. 流動資産は流動負債をかなり上回っているか
  3. 債券債務と比較して十分な運転資本を持っているか

「一般的には少なくとも流動負債の2倍の流動資産を持つべき」と言われており、この基準を下回る場合は、詳細に分析する必要があります。

第14章 優先株の理論

「典型的な優先株は魅力のない投資形態であるというのは議論の余地がない。まずキャピタルゲインとインカムゲインの両方が限られているうえに、優先株主は元利の支払いに対する強制的な請求権を持っていないからである。優先株が債権者としての権利(債券)と経営参加権(普通株)の両面で限定された証券であると言われるゆえん」です。

優先株と債券の基本的な違い

この優先株について、債券との基本的な違いを理解しておく必要があります。「優先株と債券の決定的な違いは、債券利息の支払いが強制的であるのに対し、優先株の配当支払いは取締役会の意向次第」である点です。「優先株保有者の配当権は基本的には取締役会の任意によって決まる」ことを忘れてはなりません。

任意の配当

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「配当の支払いが不可能というよりは単に都合が悪いといった理由だけで、取締役会が任意に優先配当を停止することも少なくない」です。こういった行動の背景には、「優先株保有者の現在のインカムゲインよりも会社の将来の利益が優先されたということ」かもしれません。つまり、「将来の非常事態または会社の発展に備えて、配当向け現金を社内に留保することが優先された」ということです。インカム目的に優先株を保有している場合には、優先株から配当が支払われて当たり前という感覚を捨てておくことが大事かと思います。

こうなってくると、不確実性があるなかで、優先株を確定利付き証券と言ってよいものか疑問ですし、「優先配当が会社側の任意で決まってしまうというまさにその事実そのものが、優先株が確定利付き証券としての資格を持っていないことを示している」ことになります。また、「優先株の価格が大きく下落するのは減配や無配のリスクを反映している」と考えられることから、普通株式となんらリスクは変わらないと考えられます。

優先株主と経営陣の利害の対立

「投資家が利益と考えるもの(継続して支払われるインカムゲイン)と企業が利益と考えるもの(将来に備えて現在の配当を停止し、それを社内に留保すること)とは真っ向から対立」します。「優先配当が社内に留保されれば、それは会社の将来の発展につながるため、普通株主にとってはプラスとなる。取締役は法律上はすべての株主の利益を公平に代表しているが、一般には普通株主によって専任されるため、どうしても普通株主の利益を優先する傾向」にあります。

自分に投票してくれる人の顔色を窺って行動するのは、なにも選挙に限った話ではないですね。優先株主としては、議決権がないとはいえ、自分の利益(インカム)が蔑ろにされるのは、なかなか面白くないと思います。故に、相応のリターンを求めるのは至極当たり前の行動です。このような点から「リスクとインカムゲインは基本的に相容れない」ものであり、「元本割れのリスクがかなり大きいときに額面近辺で優先株を購入するのは危険」です。

優良優先株の条件

優良な優先株の条件として、以下の3つが挙げられます。

  1. 安全な債券が持つすべての最低条件を満たしている
  2. 取締役会の任意による配当停止のリスクをある程度補えるほど有利な条件を備えている
  3. その事業の本来の安定性を測る基準が債券の場合より厳しくて、それを十分にクリアしている

ただ、一方で税金という観点から優先株を捉えると、発行体である企業にとって優先株は不利です。というのも、1930年代当時のアメリカの話ですが、「債券利息は所得税控除前の利益から控除されるが、優先配当にはそうしたメリットはない」からです。

グレアムは、「優先株という形態は発行体と保有者の両方にとって何らメリットをもたらさないため、投資の観点から見ても、優先株への投資は基本的にあまり勧め」ていません。

実証調査によると、「ほぼすべての優先株の安全性は普通株の値上がりと密接に関係」しており、「優先株の保有者が満足すべきリターンを得られるのは、普通株に投機的な利が乗っているときだけ」です。「限られたリターンの証券の安全性は将来の大きな利益の可能性で代替できるものではな」く、「将来の値上がり益を得ることに確信が持てなければ、優先株などを購入して大切なおカネを損失のリスクにさらすべきではない」と語り、グレアムはこの章を閉じています。

私は、絶好の買い場で拾えた優先株ならば、手固く資産運用できるのではないかと思いますが、絶好の買い場で買えるなら、普通株も優先株もどちらも同じだな、と改めて思いました。

楽天から購入される場合はこちらから。

 

参考

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【書評】証券分析【1934年版第1版】第8章~第11章

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