【書評】任天堂”驚き”を生む方程式
2009年5月に上梓された「任天堂”驚き”を生む方程式」を紹介しようと思います。ちなみに、本書を通じて、私が一番好きな言葉は、「枯れた技術の水平思考」です。
2009年当時を思い出してほしいのですが、2008年9月のリーマンショックから、今だ回復しきれていない2009年上半期において、任天堂をトコトン分析尽くし、任天堂の方向性・ゲームに対する思考・考え方を丁寧にまとめていた本が上梓されていました。
目次
任天堂解析学
過去には遡れませんが、ニンテンドー3DSやSwitchといった後続のゲーム機の出現可能性、大ヒットの可能性を予見できたかもしれません。(予見というと言葉が強すぎますが、期待を抱くことができたかと思います。)文章の端々から読み取ることができます。
例えば、ゲーム産業の分析に定評のある岡三証券のアナリスト(森田正司氏)のコメントが掲載されています。
任天堂は景気の低迷に強いわけではなく、関係ないと言った方が正しいかもしれない。理由は、景気が良かったとしても、つまらないものは売れないから
お母さんの視点から
お母さんは高性能に喜ばない。だから、技術を起点とする設計は意味がない。では、お母さんは何を嫌い、何に喜ぶのか。お母さんのご機嫌を起点とする発想がWiiを特徴付けていく。
娯楽品と必需品の違いから
必需品であれば、必要に迫られて説明書を読んでくれる。使い勝手が悪くとも、多少は目をつむってくれる。でもゲームの場合は、そうはいかない。楽しんでいる時に不愉快になるような要素は許されない。だから任天堂は、気持ちよく遊んでもらうための努力を20年以上、積み重ねてきた。
確かに、このとおりです。異国の地で、洗濯機の使い方がわからず、説明書(現地語)をGoogle翻訳しながら、四苦八苦しているので、とても納得がいきます。
娯楽産業に求められる体質(ソフトとハードの違い)から
娯楽産業は、あらゆる点で必需品を作るハード側の産業とは違う。
人間が生きるために必要なモノを扱うわけではないので、喜びや驚きがないと見向きもされないし、わかりやすく快適でないとそっぽを向かれてしまう。技術や性能、価格といったハードの出来ではなく、コンテンツの面白さやルール、仕組み、すなわちソフトの出来が求められる世界である。
・・・娯楽産業は、高機能、高品質のモノをより安く作るための体質が優先されるハード産業とは違い、洗練されたソフトを生み出す体質、すなわちソフト体質が優先される、・・・
枯れた技術の水平思考
枯れた技術をレバレッジして、まったく別の使い方をするということは、まさにイノベーションそのものです。イノベーションという概念の産みの親でもあるシュンペーターの考えを踏まえると、一見、関係なさそうな事柄を結びつけることや異なる使い方をすることはイノベーションです。
枯れた技術をまったく別の用途に用いて利益を生み出すことに慣れている任天堂は、これからも目が離せない企業だと思います。
枯れた技術の水平思考。
電卓を構成する成熟した部品や技術を利用するものの、まったく違う目的や使い道の娯楽商品を作るということだ。
娯楽って枯れた技術を上手に使って人が驚けばいい・・・別に最先端かどうかが問題ではなくて、人が驚くかどうかが問題なのだから。
枯れた技術でも、頭をひねって考えれば人が驚くような面白い玩具を作ることができる。
書籍の目次
本書は以下のとおり、構成されています。
- プロローグ: 「100年に1度」に揺らがず
- 第1章: ゲーム旋風と危機感
- DS、1人1台への挑戦
- 社長が作った、<脳トレ>
- ゲーム人口拡大戦略とWii
- ソニーとの10年戦争
- 「ゲーム離れ」の危機感
- 第2章: DSとWii誕生秘話
- レストランで生まれたDS
- Wiiの「お母さん至上主義」
- 怖がられないリモコン
- 毎日、何かが新しい
- 第3章: 岩田と宮本、禁欲の経営
- 勝って驕らず
- 心はゲーマー、岩田聡
- 文法破る、世界の宮本茂
- 「肩越しの視線」という武器
- 「ちゃぶ台返し」の精神
- 外様社長が励む個人面談
- 伝統にサイエンスを
- 第4章: 笑顔創造企業の哲学
- 娯楽原理主義
- 「任天堂らしさ」を守る
- 「驚き」や「喜び」を食べて育つ
- 似て非なるアップルと任天堂
- 「役に立たないモノ」で培われた強み
- 黒こげのゲームボーイ
- 第5章: ゲーム&ウォッチに宿る原点
- 蘇る「枯れた技術の水平思考」
- 遊びの天才、横井軍平
- ローテクで勝ったゲームボーイ
- 最先端に背を向ける
- 第6章: 「ソフト体質」で生き残る
- カリスマ山内の「直感経営」
- 次世代に賭けた最後の大勝負
- ソフトが主、ハードは従
- 娯楽に徹せよ、独創的であれ
- 第7章: 花札屋から世界企業へ
- 京都のぼんぼんとトランプ
- 勝てば天国、負ければ地獄
- 失意泰然、得意冷然
- カルタ職人のベンチャー魂
- 第8章: 新たな驚きの種
- 「ポスト脳トレ」の新機軸
- クリエイター人口拡大戦略
- お茶の間の復権
- 「草野球市場」からの刺客
- エピローグ
私個人の任天堂離れ
30代~40代といった世代にとって、小学校のときはファミコン、中学校のときはスーパーファミコン、高校のときはプレイステーション、大学に入ったら自然と卒業という流れを歩んだ人も多いかと思います。
小学校高学年くらいから中学校といったときは、ポケモンをやるのは恥ずかしいといった感情を覚え、ニンテンドー64は低学年向けといった、なんとなくの雰囲気が学校のクラスに出来上がっていました。ゲームカートリッジの貸し借りがあるなかで、自分だけ異なる機種を持つことは即仲間ハズレになることを意味しており、同じ任天堂のハードであっても、ニンテンドー64は見向きもしませんでした。
一度、特定のゲーム機から離れると、別のゲーム機に夢中になります。また、多くのゲームソフト会社がプレステ用に魅力的なゲームタイトルを投入していたこともあり、プレステに移行したら、任天堂から離れる、それ以降、戻ることはありませんでした。とはいえ、あつもりなどのヒット商品を見ると、気になりますね。ただ、時間が惜しい。
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