【為替】外貨準備残高と輸入総額から見る安全資産通貨
じっちゃまこと広瀬隆雄氏のツイートにて、以下のように記載されていましたので、各国の外貨準備高と輸入の関係を見てみました。
新興国の為替はちょっとしたことで大きく動揺します。輸入の三か月分くらいしか外貨準備が無い新興国が経常赤字を垂れ流し始めたら、その赤字分はすぐに外準を溶かし始めます。老練なファンドマネージャーはそういうコトをよく心得ているから経常収支が赤字になりはじめたら、こっそり足抜きします。
(ツイート内容より一部引用)
目次
分析に使用したデータ
分析にあたって、輸入総額はUNCTAD(国連貿易開発会議)が公表している統計データを参考にしました。
データの取得は、ダウンロードページより、以下の黄色でハイライトしたデータを取得しました。(なお、7zipで圧縮されているため、解凍には7zipが必要です。)
なお、BPM6とは、IMF国際収支マニュアル第6版のことをいい、BPMの正式名称は、 “Balance of Payments and International Investment Position
Manual” です。
各国の外貨準備高については、Wikipedia記載の国別外貨準備高を参照しました。分析にあたって、輸入に関するデータは2018年ですが、外貨準備高の時点は2018年ではないため、結果として、分母・分子のデータ参照時点が異なります。分析の信頼性は劣りますが、見ていこうと思います。
外貨準備高と輸入高の観点から安全資産と考えられる通貨の検討その1
仮に輸出がない(外貨を稼ぐ手段がない)とした場合、輸入による物・役務の対価は外貨準備高から支払わることになりますので、どの国が相対的に外貨準備高(準備率)が厚いのか、輸入額÷外貨準備高で表せると考えられます。
この値が100%以下の場合、1年間における輸入に係る対価の支払いをすべて外貨準備高で賄うことができると捉えることができます。
一方、100%を超える場合、1年間における輸入に係る対価の支払いをすべて外貨準備高で賄うことができず、例えば、200%ならば半年で外貨準備高をすべて食い潰すと捉えることができます。
商品貿易輸入総額÷外貨準備高のグラフと順位は以下のとおりであり、100%を下回っている通貨はスイスフラン、日本円、人民元の3通貨です。なお、商品貿易輸入総額が最も多いプロットはユーロです。
商品貿易輸入総額と外貨準備高の観点から、カナドル、ユーロ、豪ドルは有事への耐性が弱いと考えられます。
括弧内は、輸入額÷外貨準備高の値です。(以下、同じ)
- 1位:スイスフラン(33%)
- 2位:日本円(55%)
- 3位:人民元(69%)
- 4位:シンガポールドル(134%)
- 5位:香港ドル(144%)
- 6位:南ア・ランド(207%)
- 7位:トルコリラ(211%)
- 8位:NZドル(238%)
- 9位:メキシコペソ(261%)
- 10位:英ポンド(335%)
- 11位:豪ドル(500%)
- 12位:ユーロ(513%)
- 13位:カナダ(552%)
外貨準備高と輸入高の観点から安全資産と考えられる通貨の検討その2
次に、分子にサービス輸入額を加えた商品貿易・サービス輸入総額÷外貨準備高のグラフと順位は以下のとおりです。100%を下回っている通貨はスイスフランと日本円の2通貨です。
サービス輸入額を分子に加えると、NZドルが、カナドル・ユーロを抜いて有事への耐性が弱いと考えられます。
- 1位:スイスフラン(57%)
- 2位:日本円(84%)
- 3位:人民元(137%)
- 4位:香港ドル(182%)
- 5位:トルコリラ(254%)
- 6位:南ア・ランド(267%)
- 7位:シンガポールドル(269%)
- 8位:メキシコペソ(521%)
- 9位:英ポンド(567%)
- 10位:豪ドル(803%)
- 11位:カナダドル(816%)
- 12位:ユーロ(874%)
- 13位:NZドル(2827%)
外貨準備高と輸入高の観点から安全資産と考えられる通貨の検討その3
分子をMerchandiseでもServiceでもなく、Goods and Services(BPM6)に置き換えた場合のグラフと順位は以下のとおりです。100%を下回っている通貨は、スイスフランのみです。
NZドル、ユーロ、カナダドルは有事への耐性が弱いと考えられます。
- 1位:スイスフラン(89%)
- 2位:日本円(135%)
- 3位:人民元(164%)
- 4位:香港ドル(314%)
- 5位:シンガポールドル(390%)
- 6位:南ア・ランド(397%)
- 7位:トルコリラ(455%)
- 8位:メキシコペソ(549%)
- 9位:NZドル(620%)
- 10位:英ポンド(883%)
- 11位:ユーロ(1309%)
- 12位:豪ドル(1313%)
- 13位:カナダドル(1364%)
“安全資産とされる通貨”の表現もあながち嘘ではない?
輸入額・外貨準備高という観点から捉えると、日本国に外貨準備高が十分にある限りにおいて、日本円は安全通貨であると考えられ、よくマーケットで円高に急騰する際の”言い訳”として用いられる”安全資産としての円が買われた”という発言もあながち嘘ではないと思われます。
一方で、”安全資産としての円”というワードが安易に使われている気もしますので、マスメディアもアナリストも、日本円がなぜ安全資産と呼べるのか、毎回説明して個人投資家を教育を啓蒙してほしいです。そもそも、安全資産とされる円が買われたというのはロジックが飛んでおり、説得力がまったくなく、何も思考していない証左です。
なお、ちなみに最も安全な資産はスイスフランと言えますが、スイスフランをペアとする取引はボリュームが薄いです。(取引量の5%にも満たないと言われています。)一方で、日本円は対米ドルの取引ボリュームが相対的に厚いことから、有事の際に、スイスフランよりも日本円が買われる傾向にあると言えると思います。(通貨ペア別取引量については、BISのサイトから統計データを取得の上、改めて確認したいと思います)
まとめ
- 外貨準備高に対する輸入額の割合から日本円は安全資産のうちの一つと言える
- 取引ボリュームも踏まえると、安全資産と呼べるのは日本円だけと考えられる