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【書評】証券分析【1934年版第1版】第8章~第11章

2021/08/30
 

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40代の読書家 兼 エコノミスト。 普段、マネーに世界中をさせています。ブログでは、おカネ(投資)とホン(書評)とタビ(旅行)についてまとめていきたいと思います。「いいね」を押してくださったり、ツイートしてくださると励みになります。 よろしくお願いします。

ベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドによるバリュー投資のバイブルともいえる証券分析【1934年版第1版】を紹介します。全52章から構成される大作のため、後々見返すことを念頭に、書評というよりもむしろ各章の要約的な位置づけとして複数回に分けてまとめます

要約・備忘録としての位置づけが近い、このブログシリーズの自分ルールについては、別記事でまとめました。

前回の記事では第6章と第7章について触れましたが、今回は、

  • 第8章 債券投資の基準
  • 第9章 債券投資の基準(続)
  • 第10章 債券投資の基準(続)
  • 第11章 債券投資の基準(完)

をまとめます。

第8章 債券投資の基準

前章に引き続き、この章では、債券投資の基準について説明されています。

第四の原則ー厳しい安全基準を適用する

「優良債券の選択は全体として消去のプロセス」のため、安全性が疑わしい債券を除外するための明確なプロセスが必要です。そもそも、債券投資は確実に利息を得るための投資ですので、利息を受け取れるかどうかわからないような債券投資は投機の部類です。

「ニューヨーク州法令に規定された債券投資の一般基準は、①発行体の性質と立地、②発行体の規模、③発行証券の条件、④債務返済・配当能力の実績、⑤支払利息に対する収益の比率、⑥債券発行残高に対する資産価値の比率、⑦債券発行残高に対する株式資本の比率ーに大別」されます。この法令は貯蓄銀行やトラストファンドがリスクを取りすぎること規制した法令ですが、こういった法令を参考に個人投資家が参考にすることは非常に理にかなっています。

一方で、安全性を求めるあまり、全員が全員このような基準を適用すると、一部の優良債券が品不足になり、適正価格から乖離するため、厳しすぎるのも問題です。したがって、「その分野に内在する不安定さを承知しながらも、「個別銘柄」の安定した実績に着目するのが賢明な方法」とされます。多くの個人投資家が内在する不安定さを承知しているか甚だ疑問ですが。

発行体の規模

「かなり小規模な企業の債券は、保守的な投資家向きの証券としては、望ましくない。そうした小さな企業は不測の事態に対して大手企業よりも支払い能力がないうえ、銀行とのつながりや技術資源の面でも大きなハンディがある。また、小規模な企業は広く資金を調達できないため個人資金に頼らざるを得ず、そうした企業への資金提供者が利益の分配や経営権に直接干渉する恐れもある。」したがって、「一定規模以下の人口の地方自治体債などは避けたほうがよい」とされます。

なお、「規模の大きさそれ自体がその企業の繁栄度と財務力を表すものではない」ため、インタレスト・カバレッジ・レシオの収益性やそもそも規模が身の丈にあっているか確認すべきです。

発行規模

「投資家は債券の流動性というものをそれほど重視していないため、債券投資の一般基準に発行規模の要件を盛り込むことにはあまり意味はない」。特に、個人投資家が新発債を購入するのならば、関係ありません。私としては、個人投資家は既発債で割安なものを買った方が良いと思うのですが、SBI証券のようなネット証券で、既発債の取扱いは少なく、使い勝手は悪いです。

第9章 債券投資の基準(続)

短い満期に甘い基準は禁物

「長期債よりも短い満期(例えば3年以内)の債券を購入するときにはその安全基準を甘くしがち」ですが、発行体からしてみれば、調達した資金をすぐに返さなければならないため、「投資家は単なる満期の長短をもってその債券の安全性を測ってはならない」とされます。

信用格付けが低いために相応の価格で長期債を発行することができないために、短期債を発行する企業も少なくないから」です。

利息と配当の実績

個人投資家がよくやりがちなのが、高配当・高利回りに目を奪われて、元本毀損を是とする、放置する行為です。高配当だからという理由だけで、AT&T株を保有し、含み損を抱えている現実から目を背け、毎回の高配当のみに関心を向ける。こういった投稿をTwitterでよく見かけます。一つ注意したいのが、「高い表面利率が元本損失のリスクを十分に補うことはできない」ことです。債券投資においては、特に「デフォルトの可能性が少しでも認められるような場合には、いくら高利回りの債券であってもそれらを購入してはな」りません。

「通常よりも高い利回りのこうした地方債は、「大きなリスクを取ることによってではなく、その債券の安全性を自分で確認することによって」初めて購入が可能とな」ります。「投資家の身の安全はその企業がすべての利息費用を完全に賄える状態にあって初めて保証される」のであって、甘い基準・甘い期待を抱いてはいけません。収益性を検討するにあたって、「支払利息の正しい計算法はすべての利息費用が正確に収益倍率に反映される「オーバーオール・メソッド(Over-all Method)」ということにな」り、「すべての債券分析について同じ収益レシオが使われ」ます。

21世紀の現在は、さすがに真実を正確に伝えない、歪曲した情報を流すというのはあまり見かけませんが、発行体は、自分に都合の悪い情報を積極的に開示しないという猜疑心をもって情報に接したほうがよいです。

第10章 債券投資の基準(続)

証券担保付き社債

証券担保付き社債に「本来的なメリットがあるとはいえ、債券保有者が自らの権利を主張しないとそのメリットも低下するという点をよく知っておかなければならない。」

不動産抵当証券

不動産抵当証券の「評価額は、不動産鑑定士が手数料を稼ぐために算出した完全に人為的な価格であり、これらの人々がやったことといえば保護すべき投資家を単にだましただけ」です。現在も、流動性が低いアセットはにはこういった事象があてはまりそうな気がします。

すべての当事者のモラル、見識および常識が曇っていたために単にそれらが表面化しなかっただけだった。その結果、とんでもない水準にまでバブルが膨らみ、最後には当然のことながらバブルがはじけたのである」と1934年版の書籍で触れられていますが、2008年のリーマンショックのときも、当時者(投資銀行、格付機関、機関投資家など)のモラル、見識、常識が曇っていたため(カネで目が眩んでいたため)、とんでもない水準にまでバブルが膨らみ、弾けたのではないかと思います。人間は不完全で愚かですので、歴史は繰り返します。

「普通のモーゲージは一般住宅だけを対象としていたので住宅の購入者や賃借人はいつでも存在しており、そのときの価格水準を少し下げればいつでも賃貸・処分できた」ものの、「その建物が特殊な目的で建てられた場合(例えば、ホテル、車庫、クラブ、病院、教会または工場など)、それらを処分するのは極めて難しくな」ります。「未来の建設当事者がその建物を利用してどれほど利益を上げるのかということによってのみその価値が決まる」これは、今も同じことが言えます。特化型REITが増えてきて、分配金利回りが高かったとしても、使途を変更することのハードルが高いため、有事の際は、減配・無配のほかにかなりのディスカウントを強いられると思います。例えば、コロナ禍におけるホテル系REITが良い例かと思います。

「企業向け融資に近い」というのはまさにその通りで、特定のモーゲージ債券に投資するのではなく、ホテル特化型なら、ホテル運営事業者に融資するというのと見方は近いと思います。

新築の家賃に基づいた価値のミスリーディング

「一般に賃借人は新しいアパートにはかなり割高な家賃を支払っても入居」する傾向にありますが、一方で中古物件、中古アパートには見向きもしない傾向にあります。見方を変えると入居者が変わると、中古に住もうとする入居者は、新築物件ほどには賃料を払う理由がありません。となると、「最初の数年間に受け取ったかなり割高な賃貸料をベースとした利回りがその不動産抵当債券の満期まで得られる」という発想がいかに危険かわかると思います。新聞の折り込み広告に入っている投資用物件にもこれは当てはまると思います。

投資家が注意すべき点として、「①・・・・不動産の価値が借入金を60%も上回るようなことはもはや起きないだろう。②こうした不動産の実際原価や適性価額はこれまでの投機的なインフレ価格よりはかなり低い水準に落ち着くだろう」といえます。

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「当該不動産の実際原価が抵当債券価格を少なくとも50%は上回るような銘柄を選択すべき」であり、「空き部屋による収入減と建物の老朽化に伴う賃貸価値の減少分を十分に踏まえた予想損益計算書を作成すべき」であり、「収入から減価償却費を控除した利益の安全余裕率を支払金利の少なくとも2倍は持たせるべき」とされています。空室リスクなどのもしもに備えて、堅い基準を自分の債券投資(あるいはマンション投資)に割くべきです。

「不動産抵当証券では通常の商取引の場合に比べて、一番抵当権が二番抵当権よりもはるかに強い権利を有していることをよく認識しておくことも大切」です。また、「入居者を常に確保し、まわりの快適な環境を維持して資産価値を減らさないためにも、立地と建物の造作が極めて大切」です。100年前も、今も、不動産の価値を決める背景が変わっていないことになんら違いはありません。不動産投資・マンション投資するにしても、自分で世話をできない物件には手を出すべきではないですね。

ホテルや車庫などの特殊なまたは限定された目的の建物の抵当証券は絶対に購入すべきではない」ですし、「新設のホテルなどを担保とした証券の投資はどこから見てもインカムゲインを目的とした投資とは言えない。」です。転用の用途が限定的なものは昔も今も、使い勝手が悪いので、出口戦略が難しいです。あぶく銭があったとしても、こういったものに手を出さないようにしたいですね。

第11章 債券投資の基準(完)

企業の実質価値が何よりも重要

「固定資産の簿価」はその債券の安全性を測る基準としては実際にはまったく意味がない」とこの章の冒頭に登場してきますが、バブル期の銀行マン・投機家がこの言葉を理解していたら、少しは違った結末になったのではないか?と思います。

「企業実体としての価値」はその収益力によって決まる。そしてその収益力を裏付けるのはその会社の業績である。」と、当たり前なことが書かれていますが、時として、この当たり前なことを無視してしまう・無視して(あるいはそもそも当たり前なことも知らずに)相場に乗ろうとする愚民が多いからこそ、バブル期に特に重要な言葉だと思います。

株式時価に基づく株主資本

「どのような指標にも何らかの欠点は付き物であり、この株式時価レシオはバランスシートの数字や普通の評価法に比べて、継続企業としての適性な価値をよく表す指標のひとつとして広く認めらて」おり、「株式時価レシオは、株主資本が債券債務をどのくらい上回っているかを見るいわば限定された目的でしか使用できない」とのことですが、そもそも株式時価レシオ(株式時価総額÷社債発行額)の指標を初めて知りました。現在も有効性を持つのかわかりません。(検証していません。)

「時価換算の株主資本金が債券債務の何倍になっているかを見れば、その債券の安全性は一目で分かり、逆に時価換算の株式資本金が債券債務よりもかなり少なければその会社の債券はリスクが大きいとすぐに理解できる」

間違ったアプローチ

「もしある会社の株価が安すぎるという理由でその会社の債券を購入するならば、それは基本的には間違った考えである」。これは、今でも言えると思います。参考にする指標が違いますし、債券は多少の利回りを犠牲にしてでも安全を最優先、妥協を許さない投資です。そもそも、「債券の選択は、「消去法であるという」という基本原理に立ち戻るべき」です。

「株価が高いときには株式時価レシオを高めにとるべきであると忠告することはできない。こうした忠告が実行されないことは分かっているからである。また、弱気相場のときにそうの逆のことを勧めることもできない・・・探す気さえあれば不況期でも通常のあらゆる基準をクリアできる魅力的な債券を見つけることができるaからである」

一般投資家には個別社債投資が浸透しているとは思えませんが、愚かなる投資家は、ヤマを張らず、コツコツと雪だるまを作っていけばいいと思います。

楽天から購入される場合はこちらから。

 

参考

ひとつ前の記事はこちらから

【書評】証券分析【1934年版第1版】第6章~第7章

 

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